RCA  RAK/RAL
1.はじめに
 RAK・RALは1930から40年代の初めにかけて、米海軍における主要受信機として戦艦、空母、巡洋艦等の主力艦はもとより、補助艦艇にも広く使用され、後継機種のRBA・B・C/TCS等と共に使用されました。この受信システムは、長波用「RAK」、短波用「RAL」が1組で使用され、コントロール・ユニット(CRT−23078)により、その出力を切り替えて使用されていました。
  RAK・RALの諸元及びブロックダイヤグラムは第1表の様なもので、回路構成は、高周波増幅2段、再生検波、低周波増幅2段、AVC付、真空管はST管を使用しています。
★全体写真

2.諸元及びブロックダイヤグラム
  第1表
  
☆RAK−7:CRV−46155       ☆RAL−7:CRV−46156
    (RCA製)、74ポンド          (RCA製)、69ポンド
   ●受信方式               ●受信方式
     再生検波式(2−∨−2)         再生検波式(2−∨−2)
   ●受信周波数15〜600kHz         ●受信周波数0.3−23.0MHz
     バンド 1.15.0〜25.0kHz        バンド1.0.30〜0.49〃
         2.25.0〜43.5            2.0.49〜0.80〃
         3.43.5〜77.5〃            3.0.80〜1.33〃
         4.77.5〜153〃            4.1.33〜2.08〃
         5.153〜308〃             5.2.08〜3.40〃
         6.308〜600〃             6.3.40〜5.50〃
         7.5.50〜8.80〃
         8.8.80〜14.3〃
         9.14.3〜23.0〃
   ●オーディオフィルター(RAK・RAL共に同じフィルターを実装)
    (ハイパスフィルター)450〜770Hz (ローパスフィルター)770−1300MHz
      l.450Hz   6.600Hz           1.800Hz  6.1040Hz
     2.475〃   7.640〃            2.845〃  7.1100〃
     3.500〃   8.680〃            3.890〃  8.1160〃
     4.530〃   9.725〃            4.940〃  9.1225〃
     5.565〃  10.770〃           5.990〃 10.1300〃
   ●電源 CRV−20131、41ポンド(RAK・RAL共同じものをそれぞれに使用)
     入力110/115/120VAC
     出力AC6.2V 2A、DC90V lmA、DC180V 35mA
     消費電力 65W
   ●ブロックダイヤグラム
     受信部(RAK・RAL共同じ構成)
      1ST RF 2ND RF DET 1ST AF AFOUT AVC
      6D6(RF1)-6D6(RF2)−6D6(DET)−6D6(AF1)−41(AF2)−41(AVC)
     電源部
      876(CURR-REG)−5Z3(RECT)−874(STB)

3.再生式受信機は「重くなる」
 再生検波方式による受信機の最も重要な点で、いかに再生検波を安定に行なわせるかということです。
 そのためには構造と配置などに、「機械的に頑丈であること」、「電気的に安定であること」、「ボディーエフエクトが無いこと」等の条件が必要です。

 まず機械的には、シヤーシーはアルミダイキャスト、バリコンのシールドボックスはダイヤル機構と一体となった頑丈なもので(写真6参照)、前面パネルより低周波増幅部、バリコンシールドケースの順に配列しています。
 またコイル群は、ボディー・エフェクトを防止するためパネルより出来るだけ離し、コイル群を厳重にシールドして操作パネルから離れた奥側に配置しています。

 これらのコイル群を切り換えるために横−列に並らんだバンドスイッチ、シヤーシー底面は2重シールドされた底板、ケースとパネル間に取り付けられた相互接触片、これらを包む重量級のアルミケース等々の厳重な装備がほどこされています。
★シャーシー上、下写真

 また電気的配慮として、なぜ高周波増幅が必要か ボディエフェクト防止にベークライトシャフト使用
安定化電源、カレントレギュレータ

4.機械的な特徴:再生式受信機は「同調回路が全て」


 この時代の受信機は、同調回路を「いかに高品質に作るか」と云う、もっとも基本的なことに忠実に対処しています。

(1)高周波同調回路
 銀メッキ処理した大型3連バリコンは、アルミダイキャスト製のシールドケースに入れて周囲とのシールドを確実に行ない、同調コイル(写真2、3参照)は、大型タイト・ボビンに太い線を巻き、その上から防湿処理用のパラフィンを掛け、これを真鍮に銀メッキをほどこした厚手の大型シールド・ケースで覆っています。

 コイル群はANT・RF1・RF2の各段に3個づつ使用し、計9個のコイル(写真4.5参照)を使用しています。
 各段の3個のコイルは、タップによリそれぞれが3バンドに分けられて、合計9バンドがバンド・スイッチにより切り換えられています。(RAKは各段にコイルを2個づつ使用し計6コで、1個のコイルが3バンドに分けられて、合計6バンドになっている)
★コイル写真

(2)ダイヤル機構
 チューニングは10目盛を刻んだ円板によるメインダイヤルと、100度目盛の円板のスプレッドダイヤルとがギヤにより結合されてバリコンを駆動しています。従って読み取り精度は1000度目盛となり、この目盛と較正表により受信周波数を換算して読みとります。
 これは、カバーする周波数範囲が狭い(周波数伸び率を小さく取っている)ために読み替え表で充分な精度が確保できること、ダイヤルが機構的に簡単となることなどからこの様な構成を採ったものと思われます。
★ダイヤル写真

5.電気的な特徴
(1)高周波増幅段
 まずアンテナからの入力同調回路は、アンテナ・トリマーが設けられており、空中線の給電点インピーダンスが周波数により異なることから生ずる入力同調回路の同調点の変化を補正しています。
  目的の信号に周波数を合わせた後、この信号が最良の状態になる様に、アンテナ・トリマー、RFトリマーを調整します。また、RFコイルには、トリマー・コンデンサーが付けられ、並列容量の補正ができる様になっており、高周波段の利得調整はカソードの可変抵抗により行なっています。

 再生検波段は、第3巻線により再生(ポジティブ・フイードバック)がかけられて、検波管のスクリーングリッドの電圧を調整し、増幅度を変化させフィードバック量の調整を行なっています。
 また、この再生検波同調回路には、徴調用コンデンサーが取り付けられており、シャープなオーディオ・フィルタ(後述)による混信からの逃げ、追込み等のチューニング操作が可能です。

 再生検波段の電気的安定対策は、スクリーン・グリッドの定電圧回路よりの電源供給、フィラメント回路には電流制御管が使用され、共に電源の電圧変動による影響を少なくしています。
 さらに、フィラメントとカソード間の容量により生ずる高周波数段への廻り込みを取り除くため、フィラメント回路に、「LPF」を挿入し処理しています。

(2)オーディオフィルター

 この様な再生検波方式では、高周波段における選択度の向上策は、再生による「同調回路のQを上げる」がすべてです。これによる以外はオーディオによる処理しかないわけですから、本機も又オーディオ・フィルタには、特別な配慮が払らわれています。

 このオーディオ・フィルタは2段構えで、「ブロード、シャープ」の切替は、250Hz〜1200HzのフィルタのON、OFFにより行なわれ、音声信号に対するオーディオ特性を選択可能です。 これに加えて電信対応を主目的とした「オーディオ・チューニング」を使用しています。

 まずオーディオ・バンドを450-770Hzのハイパスフィルターと、770-1300Hzのローパスフィルターの組み合わせをトルグ・スイッチで選択し、さらにこの各々の帯域を10ポジションで、30Hzきざみのハイカット、70Hzきざみのローカットによりオーディオ・チューニングを取ることができます。従って受信信号中に何かの混信があったとすれば、このオーディオ・チューニングを使用してハイカット・ローカットで選択するか、混信に零ビートを取って逃げる等いろいろな工夫ができるわけです。
★フィルタパネル写真

(3)低周波増幅
 このオーディオフィルタを通過した低周波信号は、6D6による電圧増幅、41による電力増幅が行われて、ライン出力及びヘッドホン用として500Ωにて出力されます。

 また、電力増幅段の出力側で自動音量調整機能を持った回路が付加されています。このAVC動作は、出力管41のプレート回路に、AVC用のトランスを接続し、このトランスの2次側回路に、別の41を2極管接続したものをクリッバーとして設け、この41のバイアス値を変化させて、クリップ点を変えAVCの動作開始点を制御しています。

 このクリップ点をオーディオ信号が越えた場合には、AVC用トランスの2次側に負荷がかかり、出力管41のプレート回路の挿入損失が増え、AVCとして機能するといった珍らしい回路です。この方法は単なるクリップによる方法より歪みの発生が少ないことが知られています。

 この受信機の指示計器としては、フィラメント電圧計、オーディオ出力計が装備されていますが、Sメータは付いていません。
★前面パネル写真

(4)電源
 受信機を動作させるための電源として、CRV-20131が用意されています。この電源はRAK、RAL共通で各1台づつ使用します。
 この電源は、交流入力110〜120Vを用い、トランスの−次側にカレントレギュレータとして「876」、整流管として「5Z3」、定電圧放電管として「874」が使用され、電圧出力は、DC+180V、DC+90VREG、AC6.3Vの3つの電圧が出力されますが、前に述べたカレントレギュレーターにより、全体の安定化が計られています。
★電源シャーシー写真

6.余談
 この頃の日本軍でRAK/RAL・RBA/RBB/RBCに相当する受信機は「92式特」「3式特」ですが、「92式特」はプラグイン・コイルによる周波数切り換えで長波、短波は同−きょう体の形式、RAK、RALは、バンド・スイッチによる切り換え長波、短波は別きょう体となっており、さらにRBA、B、Cでは、長波、中波、短波の3きょう体となり、その趣きは異っています。

 この長波帯、短波帯等の使用区分については、通信する相手方及びその距離により決められるわけですが、軍用の場合には情報を確実に伝達しなければならないということから、長波、中波帯が受信の主体となっていました。

 当時、日本での長波送信所は愛知県刈谷市の依佐美に設置されていました。(現在は撤去されています)。その17.4kHzの電波は、太平洋・インド洋をカバーし、対着水艦、対水上艦艇用の通信基地として重要な存在でした。
 第2次大戦当時、ここより発せられた電波は暗号により送信されましたが、このRAKによっても受信され、その通信内容は傍受されていたはずで、ハワイ、フィリピンのコレヒドール、シンガポール等の戦闘情報班により旧日本海軍の戦略常務用暗号「D」(米軍呼称JN−25)は受信され、ワシントンへ送られ戦略用情報として次々と処理されていったのです。

2002.11.13 1版


BACK TO INDEX inserted by FC2 system