NATIONAL HRO TO HRO50
写真はHROー5RA1
【魅力】
1.HROって何だ
いまさら改めて言うまでもありませんが、ナショナル社の「HRO」、ハリクラフターズ社の「SKY RIDER」、ハマーランド社の「SUPER
PRO」等のネーミングはあまりにも有名です。
第2次大戦中米軍の主力受信機として、BC779/BC794/BC1004シリーズ・AR88/CR88/SC88シリーズ・HRO/HRO5シリーズ・SX28/BC342/BC348等、シングルスーパーヘテロダインの傑作受信機の一つです。
このHROシリーズは伝統的なプラグインシステムとPWダイヤルが象徴的であり、さらにメンテナンスの必要部分が少ないといった特徴を備えた銘機として有名です。また、軍用仕様であることから、使用されている部品とその材質は素晴らしいもので、現在でも実用機として優れた性能を有しています。
「HRO」シリーズは、米国のナショナル社の生んだ銘機である事は、いうまでもありません。HROの名前の由来は1934年プロトタイプの発売に際し、「Helluva
Rush Order」(猛烈な受注)を期待して、その頭文字を命名した事にあると米国ナショナル社はアナウンスしていました。
この「HRO」シリーズは、1934年にHROが発売されてから、HRO-5、HRO-7、HRO-50、HRO-60、HRO-500、HRO-600と続きました。
時代の移り変りと共に「HRO」シリーズの回路構成も変わり、HRO(ST管)、HRO-5(メタル管)、HRO-7(一部MT管)、HRO-50(−部MT)、はシングルスーパー構成、HRO-60(一部MT管)はダブルスーパー構成、HRO-500(トランジスタ)、HRO-600(トランジスタ+IC)はシンセサイザ構成と、無線機に対する思想の変遷が解り、とても興味深いものがあります。
2.なんでHROは有名なのか
HROを有名にした最大のポイントは独特のルックスを持ったPWダイヤルとプラグインシステムです。またシンプルな回路構成を世界各国が軍用無線機のお手本として模倣したことも、有名にさせた一因でもあります。その詳細は後ほど紹介することとして、その前にこのシリーズを楽しむための見所を紹介してみます。
写真はHROー5RA1
3.HROシリーズを楽しむために
(1)フロントエンド
HRO、HRO-5、HRO-7、HRO-50の時代は、受信信号をいかに増幅するかを主体として考えられ、高周波増幅段を2段設け周波数変換した後、中間周波増幅を2段(HRO-50は3段)行っています。
この時代は、まだ再生検波式受信機の名残りがあり、同調回路に付属した増幅回路といった趣きが感じられます。
つまり、同調回路で抽出した信号のみを出来るだけ増幅するという観点から、高周波増幅段の同調回路は、受信機全体から見て、極端に大きなウェイトを掛けており、Qを高く取るために大きな形状のコイルをどう配置するか、大型バリコンをどう配置するかに、各社各様の配慮がなされて来ました。
このことは、目的信号を増幅すると言うことを主眼とすれば、他の不要な信号をどう抑圧するか、目的信号波と不要波にレベル差をつけて、混変調、相互変調等の回路の非直線部により発生する歪を減少させることになります。また、局部発振出力の純度(C/N比)を高め、混合出力に生ずる不要波を極力減少させようとしています。(混合後の出力中に含まれる不要波という点から考えれば、空中線から入ってくる不要波も、局発出力中に含まれる不要波も区別はないわけです)
現在ではシンセサイザ方式の進展と共に、フロントエンドのダイナミックレンジ改善が求められ、大幅なデバイスの進歩により、高周波同調回路の省略が可能となり、コイルとバリコンが無くなってしまい、受信機のフロントエンドの有様が一変してしまいました。
しかし、受信特性改善と言うことを考えると、現在のシンセサイザ受信機にプリセレクタの様な高周波同調回路を追加することによって、目的周波数以外の不要波を抑圧する事が出来ますから、現状よりさらに受信特性の改善が期待できるのです。
この様なことから、フロントエンドの同調回路は多段接続の同調回路が効果的であることは言うまでもありません。Qを高く取るという事象から見ますとまさに「HRO」の時代と同様ですから、当時の同調回路の構成や部品クォリティを見ますと、「実にみごとである」と感ずると同時に、現在もまた素晴らしいお手本としてその存在は高く評価されます。
(2)周波数読み取り精度
ダイヤル機構は、シングルスーパーで、高周波同調コイルと4連バリコンを使用していることから、周波数の読取をどうするか、その精度をどの程度までにするかということが問題となります。
1バンド当りの周波数カバー範囲を狭くすると、同じダイヤル機構で比較すれば、読み取り精度は上がりますが、切り換えるバンドの数が多くなってしまいます。
カバー範囲を大きくすると周波数読取精度が悪くなるほかに、受信周波数を変化させることにより同調回路のインピーダンスが大きく変化する(L/C比)ため、増幅段での利得変化が大きくなってしまいます。
これらの影響を考慮して、受信周波数1バンド当り高周波/低周波比(これを周波数伸率といいます)を2〜3に納めるのが一般的ですが、この周波数伸率に対して、バリコンの容量変化がどのように変れば周波数に対し直線となるか、波長に対し直線となるかが決まるわけです。すなわち、バリコンの羽根(ローター)の形状をどうするかが決ってくるわけです。
以上のようなことを前提として「HRO」シリーズをご賢いただくとそのおもしろさは数倍化するのではないでしょうか。
写真はHROー5RA1・出力トランスは改造取り付け
4.仕様
HROに始まるこのシリーズは、最初はST管を使用してスタートしましたが、HRO5からはメタル管を使用したモデルとなりました。それ以来、中間周波増幅以降のステージは使用管種こそ変わりましたが、ひたすらメタル管・GT管を使用し、高周波増幅段・局部発振段・混合段はMT管に変えても中間周波以降の管種変更はしませんでした。
(1)受信機の構成
@受信機の構成は、受信機本体・プラグインコイル群・電源・スピーカーの4点1組。
A受信方式は、高周波増幅2段・中間周波増幅2段・低周波増幅2段構成でクリスタルフィルター付きシングルスーパーヘテロダイン方式。
B同調機構は、4連バリコンとウォームギアによる減速機構、4個一体型のプラグインコイルによっている。ダイヤルは、500度表示の「PW」ダイヤル。
C受信バンド切り替えは、プラグインコイルの差し替えにより100KHz〜30MHzをカバー。アマチュアバンドは、プラグインコイルのネジの差し替えまたは爪の切り替えによりバンドスプレッド専用コイルとなる。
Dプラグインコイルは、ABCD(1.7〜30MHz)のいずれか1本が受信機本体に実装され、残り3本がウッドケース入りとして標準構成。それ以外のコイルはオプションで、フル構成装備では9本組。
E電源は[DogHouse]と呼ばれるケース入り。
Fスピーカーは受信機と同じ高さの金属ボックスに収納。
(2)[HRO]シリーズのプラグインユニットの名称とカバー周波数
General Coverage HRO HRO5 HRO7 HRO50 HRO60
0.05-0.10Mhz J J J J J OPTION
0.10-0.20 H H H H H OPTION
0.18-0.43 G G G G G OPTION
0.48-0.96 F F F F F OPTION
0.90-2.05 E E E E E OPTION
1.70-4.00+SPRED D D D D D STANDARD
3.50-7.30+SPRED C C C C C STANDARD
17.0-14.4+SPRED B B B B B STANDARD
14.0-30.0+SPRED A A A A A STANDARD
27.0-30.0 -- -- AA AA AA OPTION
25.0-35.0 -- -- -- -- AB OPTION
21.0-21.5 -- -- AC AC AC OPTION
50.0-54.0 -- -- -- AD AD OPTION
STD+Option 4+5 4+5 4+7 4+8 4+9
これ以外にHRO60では[ADx](35Mhz〜54Mhz)というプラグインコイルが存在します。このコイルについては説明書などにはいっさい出てきませんが、オークションでは2度ほど現物が出品されました。想像ではメーカーへ特注して購入したものではないかと思われます。
5.ダイヤル円周長3.6mのPWダイヤル機構
HROの顔とも言うべきPWダイヤルを見たときは、どうしてメインダイヤルが1回転すると、窓の中の数字が増えていくのか不思議でした。メインダイヤルを回していくと窓の数字が1回転で、0から50まで変わって表示され、2回転で100までと、ダイヤルが10回転すると表示が「0-10-20・・・・100-110・・・・490-500」と変化していきます。
(1)PWダイヤルとは
ナショナル社は、当初パーツの生産販売を主体として事業を展開していました。それらのパーツには、コイル・バリコン・ツマミ・ダイヤル等があり、これらを組み合わせたキットも販売していました。その中のダイヤルの一つに「PW」型「NPW」型というウォームギヤと大型ツマミを組み合わせたダイヤル機構があります。「PW」型はダイヤル回転シャフトと直角方向にバリコンを結合するタイプ、「NPW」型はダイヤル回転シャフトの軸上にバリコンを結合するタイプを指します。
このPW型は「HRO」シリーズで有名になりましたが、NPW型は「NC100」シリーズで使用されています。
(2)ダイヤル機構
このダイヤル機構は、写真4の左下にある内歯の付いたアルミダイキャスト製の外側ダイヤルと、右下にある数字が並んだ同じくアルミダイキャスト製の外歯付の内側ダイヤルと、中央にあるウォームギアユニットが主な構成部品です。
左下の外歯ギャと右下の内歯ギャがかみ合って回転するのですが、かみ合い点は下側になっており(ウォームギアユニットのガイドシャフトが下側にふくらんで、オフセンターになっている点に注意)、当然のことながら外歯ギヤより、内歯ギヤの方が歯数が多いため、外歯ギヤが1回転しても内歯ギヤは1回転しません、このために1回転毎に、内歯ギヤの小窓から見える数字が変わって現らわれることになります。
また、左端にあるスプリングは内歯ギヤと外歯ギヤと密着させるためのスプリングです。さらに、ウォームギアの左右に出ているシャフトはバリコンと結合され、左に2連、右に2連と4連バリコンを形成します。このバリコンの羽根の形状は写真5に見られるように、伸率2.5で波長直線に近くなっています。
PWダイヤルのアッセンブリ
PWダイヤルは直径11.5cmの大型ダイキャスト製円盤で、その円周36cmを50度に目盛ってありますから、1目盛りの間隔は約7mmです。この円盤が10回転して、1バンドをカバーしています。また、円周の長さは約36cmですから、延べ長は10倍の距離の3.6mの直線横行ダイヤルスケールと同じとなります。
Cバンド(3.5MHz〜7.3MHz)のバンドスプレッド(7.0〜7.3MHz)の場合、PWダイヤルが10回転(500目盛)で300KHzを表示しますから、1目盛りは約0.6KHzに相当します。また、7.0〜7.3Mhzのアマチュアバンドが3.6mに表示されることになります。
(3)Sラインも使っていたディファレンシャル機構
この構造は、1934年のHROが供給された当初から一貫して採用され続け、受信機の前面パネル中央の大きな円盤と5個の小窓を持ったPWダイヤルは、ナショナル社の象徴的シンボルとなっている有名なダイヤルです。
PWダイヤルほど象徴的ではありませんが、このディファレンシャル構造はコリンズのSラインのメインダイヤルやケンウッドのTS820のメインダイヤル等にも使われています。
6.プラグインコイルのないHROは「帆のない帆船」
(1)コイル全体
HROからHRO60までのシリーズの第1・第2高周波増幅段・混合段・局部発振等を構成する4本の単体コイルをユニット化して、ユニット交換によるプラグイン方式により一挙動でバンド切り替えを行うことができます。HROのプラグインコイルと呼ばれるものは、個別のコイルではなく、ユニット化されたコイル群を指します。
このプラグインコイルは、HROの場合A/B/C/Dバンドの4本は標準装備、E/F/G/H/Jバンドの5本はオプション、フルバンド装備しますとジェネラルカバー9バンドとなります。
他の無線機メーカーの受信機は、おおむね6バンド構成で受信機の受信周波数帯を変えて、スタンダードタイプ、LFタイプ等のバージョンとして供給しています。HROの場合はプラグインコイルを変えるだけで受信バンドを替えることが出来ますから、受信周波数の違いによるバージョンの変化はありません。
従って、プラクインコイルが少なければ、当然受信範囲は狭くなるのですから、古人曰く「コイルのそろっていないHROは”帆のない帆船”のようなものだ」とまで言い切っています。
電源(DOG HOUSE)とコイルコンテナ
(2)プラグイン方式
高周波増幅部は前に述べた様な考え方から、大型コイルと大型4連バリコンを組合せて、Qの高い同調回路を構成しています。
この大型コイルを周波数伸び率2.5で考えると、中波放送バンドから短波帯を受信したとすれば、6バンド程度が必要となります。この6バンドのコイル全てを受信機内に収容しようとすれば、スぺ−ス、Qの低下、コイル相互の干渉等が考えられ、プラグイン方式の考え方が浮んで来るわけです。
このプラグインシステム方式を採用することによって、コイルを遮蔽する空間が大きく取れること。他のコイル群との干渉を皆無に出来ること。受信機のコイル設置スペースを1群だけに限定できること。等々の効果が得られます。
また、バリコンとの配線距離も短距離で接続できますから、周波数が高くなっても安定な動作が期待出来ます。
プラグイン方式とした場合には、コイルを受信機に装着した状態が、モノバンド受信機の如く考える事が出来、実にシンプルな構成となります。
このプラグインコイルユニットを、標準装備とオプションとに分け、必要なだけ買いたして行くことができるわけです。
まして軍用ともなりますと、汎用性、用途に応じた使い分け等を考えますと、必要な帯域のコイルユニットのみ配備し、資材の効率的使用を考える事も出来るわけです。
このようにして、プラグインユニットを前面から抜き差しする構造にした場合、バリコンとの接続を考えると、バリコンは横置が理想となり、「HRO」スタイルが出来上って来るわけです。
(3)ジェネラルカバレージとバンドスプレッド
コイルユニットは左側から、ANT、RFl、RF2、OSCの順コイルケースが配列され、周波数−ダイヤル目盛の較正表が取付けられており左側GENERAL
COVERAGE、右側BAND SPREADとなっています。
コイルユニットの内A/B/C/Dのコイルは、それぞれのコイルユニットの各コイル端子にある「右端のネジを隣の端子に締め換える」ことにより、アマチュアバンド専用スプレッドコイルまたはジェネラルカバレージとして使うことが出来ます。
プラグインコイル
このスプレッド機構は、スペック中にもあるように、各コイルユニットの上限周波数付近がスプレッド出来るようになっていて、Dコイル‥3.5〜3.7MHz、Cコイル‥7.0〜7.3MHz、Bコイル‥14.0〜14.4MHz、Aコイル・・28.0〜29.7MHz、の各アマチュアバンドが、ダイヤル数字0〜500に広がり、ダイヤルの回転数にして、10回転にスプレッドされ、大きなPWダイヤルの円周長3.6mにもなり、大きな魅力の一つとなっています。
(4)その他
コイルユニットをプラグインする時には、コイル把手横のスナップスイッチB+、を切ってから操作を行うようになっています。これをやらないと、プラグインしたときに、中の接点がケースに当たり、「パチパチ」とスパークし危険です。
一寸と珍しいのは、メタル管のシールドキャップです。もとよりメタル管は外側が金属でシールド付きの真空管ですから、トップグリッドなどをシールドしてやれば良い構造です。写真5に見られるように、RF部のシールドキャップ(アルミ製でカチンとはまる)によりシールドされます。高周波段のシールドキャップには全てアースリードを付けて最短距離で接地されていますが、lF部のシールドキャップはアースリードが付いておらず、真空管の外部シールドにより接地されるようになっています。
このように、機構的にはシンプルで、故障が少なく、消費電力が少なく、軽量であること、また何にもまして有効だったのは、作りやすく、コイルさえ取り換れば用途に応じたモノバンダーとして使用出来た簡便さが売りものだったわけです。このため、軍用として非常に有効であり、各国に手本とされ製造され使用されたことは、充分うなずけます。
7.電気的な特徴
第1表に示す様なスペックおよびブロックダイヤグラムを持っていますが、使用真空管はすべてメタル管となっています。 特に中間周波増幅段以降は、HRO-7、HRO-50、HRO-60となっても、相変らずメタル管を使用した中間周波増幅2段(HRO50以降は3段)、低周波増幅2段の構成で、ナショナル社の保守的な一面をうかがわせます。
HROー5RA1のシャーシー上から
(1)高周波増幅段
高周波増幅段では、前に述べた大型コイルを使用した同調回路に、増幅素子としてバリミュー管6K7を配し、2段増幅を行っています。
この高周波増幅段は、本格的に増幅(というのも変ですが)を行っています。
この本格的という意味は、高周波増幅段に利得配分を大きく取っているという意味で、同調回路による損失補償程度ではないということてす。それは、受信機の高周波増幅部・混合部・中間周波増幅部・低周波増幅部のそれぞれで、どれだけづつ利得を持たせるかという利得配分の設計によって成り立っています。
従って、混合管への入力信号が高レベルになるため、混合管の局発注入はスクリーングリッドヘ注入を行い、いわゆるハイレベルミキサーとして高入力にも充分耐え得るような構成になっており、現在の考え方からいえば全く逆の行き方をとっています。
また、局部発振出力は、負荷が混合管のスクリーングリッドにより、インピーダンスの変化が生ずるため、局発管のカソードから低インピーダンスで取り出し、混合管の電気的負荷変動が、局部発振周波数に与える影響を少くするように設計されています。
(2)中間周波増幅段
このようにして混合された信号は、中間周波増幅段(HRO,HRO5,HRO7・・456KHz : RAS・・175KHz)で2段増幅されますが、この段での利得配分は、前にも述べたように低くなっています。
まず初めにクリスタルフィルタに入り、負荷抵抗の連続可変による通過帯域調整と、フェージングコンデンサによるNULL点調整が可能になっています。中間周波トランスは、容量可変調整式で大型のものを使用しています。
この中間周波増幅段と高周波増幅段の各段には、いずれもAGC電圧が加えられて、大入力信号時に、各段のレベル配分がくずれないように設計されており、真空管はいずれもバリミュー管の6K7を使用しています。
(3)検波段・低周波増幅段
検波段には6B7が使用され、信号検波、3極管部は低周波増幅用に使用されています。
低周波出力管は42(初期型は2A5、中期型は6A5)が使用されて、出力トランスはスピーカに附属しており、受信機内部に装備されていないのが標準です。
また、BFOは、ECO回路により動作しており、その出力は少容量により信号検波部へ結合されています。
Sメーター回路は、AGCにより制御される各増幅段のスクリーングリッドの電流変化を、信号強度の変化に読み換えて表示しています。
(4)電源部
電源部の分類は@形状による分類(DOGHOUSE・ラックタイプ)A供給電源による分類(直流・交流)B出力電圧による分類(FIL:2.5V・6.3V)(B:180V・240V)等となります。
これを表にしますと次のようになります。
また、DOG HOUSEとは、電源の収納ケースの形状が犬小屋に似ているために名付けられた愛称です。
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INPUT B+OUT FIL:2.5V FIL:6.3V 使用モデル
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AC110/230V B+180V 5887AB(DH) 5886AB(DH) HRO初期型
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AC110/230V B+240V 5897AB(DH) 697/5886V2(DH) HRO中期以降/HRO-5
SPU-697(HRO-RACK)
CN-20090(RAS-RACK)
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DC6V/12V B+160V 686(DH):6VDC 船舶・自動車等直流電源型
SPU-686(HRO-RACK)
1286(DH):12VDC 注:DHはDOGHOUSEを示す
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一般的にはHROに付属しているDOG HOUSEは697タイプの場合が多く見られます。
【弱点】
1.周波数読み取りはグラフで換算
[HRO][RAS][HRO5][HRO7]の周波数読み取り方法は、PWダイヤルの読みをプラグインコイルに取り付けてある校正カーブで換算して読みとる方法です。周波数読み取り精度からいいますと、GENERAL
COVERAGEでは100KHz程度、BAND SPREADでは、1KHz程度の読み取り精度となり、BAND SPREADの状態ではかなりの読み取り精度が出ますが、直読というわけには行きません。
しかし、この当時の一般的な通信機の読み取り精度としては、最高級のレベルでした。
2.中間周波増幅2段
前にも紹介しましたが、第1混合段がハイレベルミキサーで動作させていますので、中間周波増幅段は2段増幅となっています。また、中間周波増幅段におけるフィルターは、クリスタルフィルターが主体で挿入損失が少ないため、損失補償としての増幅は考慮しなくても良かったのです。このため、高周波増幅・混合・中間周波増幅等の各段の真空管劣化等によって増幅度が低下した場合は、感覚的にゲインが下がった感じとなります。
3.Aバンドのイメージレシオ
第1中間周波数は455KHzであるために、受信周波数が10MHz 以下の周波数におけるイメージレシオは、多少トラッキングが劣化しても設計値の受信特性を充分に満足しますが、10MHz以上では高周波増幅段のトラッキング調整の精度によって受信特性が大きく左右されてきます。
従って、特にプラグインコイル[A] BANDにおけるトラッキング調整は、格段の注意を払って繰り返し調整することが、設計値の受信特性を確保する上で大切なことです。
【メンテナンスポイント】
1.PWダイヤル
前にも紹介しましたPWダイヤルは、前面に窓の開いた外側のギヤと、数字が刻まれた内側のギヤがかみ合ってディファレンシャルギヤを構成しています。このためメンテナンスの時はこのギヤ部分のグリスアップは欠かせません。私の場合は自動車用のグリスを使用しています。また、バリコン側のウオームギヤについても同様にグリスアップしてやる必要があります。
グリスアップの後、PWダイヤルをウオームギヤシャフトに差し込んで締め付けるのですが、ウオームギアユニットとPWダイヤルの間に「波形ワッシャ」が入っていることが本来です。
この波形ワッシャはPWダイヤルの内側と外側のギヤが浮かないように押しつける役目をするのですが、これを入れてないとPWダイヤルを回すたびに「カチャカチャ」と音がします。
中古でHROを入手した人(新品で入手した人はほとんどいないと思いますが)のほとんどはこの波形ワッシャがなくなっていることが多いのです。それは、以前持っていた人がダイヤルを取り外したときほとんどこのワッシャを外したまま取り付けてしまうようなのです。私が入手した中古のHROで波形ワッシャが入っていた機械は2台位(PWダイヤルの付いた機械は10台以上持っていますが)のものです。
この波形ワッシャはスプリング機能さえあればよいので、日本製のものでも流用することは可能です。
2.トラッキング
HROで数少ないメンテナンス箇所にトラッキングがあります。この調整はHROのメンテナンスの90%以上といっても過言ではありません。
新品のHROの受信機の場合、プラグインコイルのA/B/C/Dは受信機本体とセットでメーカー調整されています。しかし、中古のコイルの場合は当然手持ちの受信機とは調整されていないわけです。受信機は1台1台ストレーキャパシティが違いますので、必ずトラッキングを取らなければなりません。
HROの場合にはプラグインコイルに校正カーブが付いていますから、バリコンの角度と周波数の関係がはっきりとわかりますので調整は可能です。また調整の項で紹介していますが「D」バンドのトラッキング調整は、イメージレシオの確保からも繰り返し調整することが必要です。
3.調整
高周波増幅段の同調回路のトラッキング調整は各プラグインユニット毎に、ジェネラルカバーとバンドスプレッドを切り替えて調整を行う必要があります。そこでトラッキング調整の概略について紹介します。
@各プラグインユニットの受信帯域の下限10%付近と上限90%付近を調整ポイントとして定めます。(取扱説明書には調整周波数が明記してあります。)
A信号発生器等で下限10%点ではコイルを、上限90%点ではトリマコンデンサを調整し、これを数回繰り返します。
B調整するコイルの順序は、最初に局発段のコイルとトリマーを調整して、ダイヤル表示(校正表または横行ダイヤル目盛り)と受信周波数(信号発生器)を合わせます。
C次に第1高周波増幅・第2高周波増幅・混合の各段のトラッキングをとり最良の感度に調整します。
写真3のコイルユニット前面近くにあるトリマーは、トラッキング調整用です。
コイル単体は、直径25mmのボビンにエナメル線を巻いたもので、発振コイルはタイト製、同調用はベークライト製となっており、コイル内側に、インダクタンス調整用の半ターンが付いています。この半ターンのコイルを動かして、インダクタンスを調整し、先ほどのトリマーを調整し、トラッキングを取っていきます。
ちなみに、この型式を採用した、旧日本軍の地一号受信機のコイルは、直往30mmで初期型はオールタイト製ボビンです。
4.メンテナンスレス
メカニズムのメンテナンスが大きな楽しみの一つでもある私にとっては、メンテナンスするところが少ないHROというのは、なんとも愛想のない機械です。しかしこのことは受信機を使う側に取ってみれば、とんでもなく素晴らしい機械です。つまり故障しにくいと言うことに他ならないからです。
グリスアップ箇所は少ないし、ギアトラッキングはありません。調整箇所と言えばプラグインコイルのトラッキング調整とIFの調整位のものですから、何にしても無愛想な機械です。
【その他】
1.旧日本軍受信機のルーツ
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1. HRO
HRO−W型:ツマミの数と位置・Sメータの色・同SW・内部真空管に注意
(1)諸元及びブロックダイヤグラム
MODEL:HRO
YEARS:1934
PRICE:$
BAND:0.05-30Mhz/9
TYPE:Single Conv
IF:456Khz
FILTER:CRYSTSAL
TUBES:9
PLUGIN COILS 9
@バージョンについて
受信機単体の仕様について大きく区分すると次の7種類のVersionがあります。
製造年 管種 IFT シャーシー PW SMET CHART SPECIAL
A:Proto 1934 ST管 筒型 黒塗装 無塗装 白地 紙 RF
GAIN無し・円盤無しツマミ
B:Ver.1 1934-35 ST管 筒型 無塗装 無塗装 白地 紙 円盤付ツマミ
C:Ver.2 1935-36 ST管 筒型 無塗装 無塗装 白地 紙 押しボタン式SメータSW
D:Ver.3 1936-38 ST管 筒型 無塗装 無塗装 白地 紙 PUSH-PULL式SメータSW
E:Ver.4 1938-43 ST管 角型I 灰色 黒 茶色 紙 トグル式SメータSW
F:Ver.5 1943-45 ST管 角型I 灰色 黒 茶色 メタル トグル式SメータSW
G:Ver.6 1945-47 メタル管 角型I 灰色 黒 茶色 メタル パネル調整可能ノイズリミッタ付)HRO5原型
[6K7-6K7-6J7-6J7-6K7-6K7-- 6SQ7
-6J7-6V6+(NOISE AMP 6J5+NOISE DET 6H6)]
Aモデル
受信機の構成のモデルについて大きく区分すると次の8種類のモデルがあります。
1.HRO-B [6D6(RF1)-6D6(RF2)-6C6(MIX)-6C6(HFO)-6D6(IF1)-6D6(IF2)-6B7(DET/AF1)-6C6(BFO)-42(AF)]モデル
2.HRO-BJr BAND SPREAD/XTAL FIL/S METERなし
3.HRO-C 本体+ストレージユニット(コイルコンテナ・電源・スピーカ一体)($259.50)
4.HRO-Jr BAND SPREAD/XTAL FIL/S METERなし
5.HRO-M Version5のSPREADなし
6.HRO-S 2.5Vシリーズで電源(80)内蔵PROTO-TYPE
7.HRO-Sr Jrに対する標準型の総称
8.HRO-W メタル管・防湿処理の軍用仕様・・HRO5の原型
[6K7(RF1)-6K7(RF2)-6J7(MIX)-6J7(HFO)-6K7(IF1)-6K7(IF2)-6SQ7(DET/AF1)-6J7(BFO)-6V6(AF)]
Bプラグインコイル
プラグインコイルの前面には、右側にジェネラルカバレージの校正表、左側にスプレッドの校正表がセルロイドはめ込み枠に紙製の校正カーブが挟み込まれています。1943年以降は、校正カーブにメタルチャートがジェネラルカバーとスプレッドの切り替えは、プラグインコイルのネジを差し替えることによって行うことが出来ます。
(HRO/HRO5はネジ差し替え式・HRO7以降は爪の回転式)
C周波数読み取り
PWダイヤルの読みとプラグインコイル前面の校正表から周波数を読みとります。当時としては、その程度の読み取り精度で用が足りていたのではないかと思います。正確な周波数を確認したい場合には、LM13等のヘテロダイン周波数計を使って周波数計の校正表から正確な受信周波数を確認していました。
D使用真空管
ほとんどの型はST管を使用しています。当初は2.5Vタイプ、その後6.3Vタイプとなります。最終型はメタル管を使用しました。
(RF1)(RF2)(MIX)(OSC)(IF1)(IF2)(DET/AF) (BFO)(AF)
初期タイプ 2.5V [ 58 - 58 - 57 - 57 - 58 - 58 --- 2B7 -- 57 -2A5 ]
中期タイプ 6.3V [ 78 - 78 - 77 - 77 - 78 - 78 --- 6B7 -- 77 -6A5 ]
後期タイプ 6.3V [6D6-6D6-6C6-6C6-6D6-6D6 -- 6B7 - 6C6 -42 ]
HRO5原型 6.3V [6K7-6K7-6J7-6J7-6K7-6K7-- 6SQ7 -6J7-6V6+(NOISE AMP
6J5+NOISE DET 6H6)]・・HRO-W
が使用されています。
EIF周波数
初期のIFTは円筒形をしたものを使用していましたが、1938年以後は角形IFTに変更されています。
中間周波数は456KHzを使用しています。
F電源
電源はラックタイプのものとテーブルタイプのものとがあり、テーブルタイプ用は「DOG HOUSE」と呼ばれる小さな屋根付きの小屋風のデザインのものです。またラックタイプは、2枚幅の薄型のものを使用しています。
Gスピーカ
ナショナル社オリジナルのスピーカボックスは、高さが受信機本体と同じ高さで、3本の縦格子があり、その中央にナショナル社の赤いダイヤモンドマークが付いています。