NATIONAL  HRO-60
【諸元】
  MODEL:HRO60
  YEARS:1952
  PRICE:$483.5
  BAND:0.05-54Mhz/10
  TYPE:Single/Double Conv
  IF:2010/455Khz
  FILTER:CRYSTSAL
  TUBES:18
  PLUGIN COILS 13
   AD:50-54.0M  OP
   AC:21-21.5M  OP
   AB:25-35.0M  OP
   AA:27.5-30M  OP
   A :14-30.0M  STD
   B :7.-14.4M  STD
   C :3.5-7.3M  STD
   D :1.7-4.0M  STD
   E :0.90-2.05M OP
   F :0.48-0.96M OP
   G :0.18-0.43M OP
   H :0.10-0.20M OP
   J :0.05-0.10M OP


【魅力】
第2次大戦後の米軍の主力受信機として、R274(SP600/SX73/HRO60)シリーズ・・・・R388(51J1〜4)シリーズ・・・・R390(R389/390/391/392/390A)シリーズ・・・・51Sシリーズ・・・・シンセサイザ機種へと変遷する中で、電気的・機械的構成が見事な最高級受信機の一つです。
特に伝統的なプラグインシステムとPWダイヤルは象徴的であり、さらにメンテナンスの必要部分が少ない特徴を備えた名機です。
また、軍用仕様であることから、使用されている部品とその材質は素晴らしいもので、受信機の特性として現在でも実用機として優れた性能を有しています。

1.プラグインシステム
ナショナル社の「HRO」シリーズは、HRO/HRO5/HRO7/HRO50/HRO60/HRO500/HRO600があります。HRO500/600は半導体を使用した受信機でいわゆるBOATANCHORのジャンルには入らないのですが広義ではHRO500までを含んでいる場合もあります。

HROからHRO60までのシリーズの第1・第2高周波増幅段・混合段・局部発振等を構成する4本の単体コイルをユニット化して、ユニット交換によるプラグイン方式により一挙動でバンド切り替えを行うことができます。HROのプラグインコイルと呼ばれるものは、個別のコイルではなく、ユニット化されたコイル群を指します。
このプラグインコイルは、HRO60の場合A/B/C/Dバンドの4本は標準装備、その他のバンドの9本はオプション装備、フルバンド装備しますとジェネラルカバー10バンド/スプレッド3バンドとなります。

他の無線機メーカーの受信機は、おおむね6バンド構成で受信機のバージョンを変えて、スタンダードタイプ、LFタイプ等としてカバーレンジを変えて供給しています。HROの場合はプラグインコイルを変えるだけで受信バンドを替えることが出来ますから、受信周波数の違いによるバージョンの変化はありません。
従って、プラクインコイルが少なければ、当然受信範囲は狭くなるのですから、古人曰く「コイルのそろっていないHROは”帆のない帆船”のようなものだ」とまで言い切っています。

このプラグインシステム方式を採用することによって、コイルを遮蔽する空間が大きく取れること。他のコイル群との干渉を皆無に出来ること。受信機のコイル設置スペースを1群だけに限定できること。等々の効果が得られます。
また、バリコンとの配線距離も短距離で接続できますから、周波数が高くなっても安定な動作が期待出来ます。

コイルユニットはジェネラルカバレージに対応していることはもちろんですが、A/B/C/Dのコイルは、それぞれのコイルユニットに付いている「爪」90度回転させて切り替えることにより、アマチュアバンド専用スプレッドコイルとして使うことが出来ます。
このA/B/C/Dコイルユニットでバンドスプレッド可能なアマチュアバンドは、A:28.0〜29.7Mhz B:14.0〜14.4Mhz C:7.0〜7.4Mhz D:3.5〜3.7Mhzとなっており、21Mhz帯は専用のACコイルを使用してカバーします。さらに、50Mhz帯はADコイルを使用してカバーすることが出来ます。


2.PWダイヤル
HROの顔とも言うべきPWダイヤルを見たときは、どうしてメインダイヤルが1回転すると、窓の中の数字が増えていくのか不思議でした。メインダイヤルを回していくと窓の数字が1回転で、0から50まで変わって表示され、2回転で100までと、ダイヤルが10回転すると表示が「0-10-20・・・・100-110・・・・490-500」と変化していきます。
この表示のからくりは、、メインダイヤルの窓を開けてあるつばの部分と、内部で数字を刻んである表示板によりディファレンシャルギアを構成し、その回転角度に差を付けて回転させれば、僅かずつずれて数字が次々と変化して表示される構造となります。このディファレンシャル構造はコリンズのSラインのメインダイヤルやケンウッドのTS820のメインダイヤル等にも使われています。

また、メインダイヤルの窓と窓との間は10分割のメモリが刻んでありますから、バリコンシャフトの180度を1/500まで分割表示されることになります。このメインダイヤルの円周の長さは約36Cmですから、その10倍の距離の3.6mの直線横行ダイヤル表示板と同じとなります。
従って、ジェネラルカバレージのAバンドでは、3.5〜7.0Mhzが3.6mに表示されることになります。また、バンドスプレッドに切り替えると7.0〜7.4Mhzが3.6mに表示されることになります。

この構造は、1933年からHROが供給された当初から一貫して採用され続け、ナショナル社のシンボルとなっている有名なダイヤルです。

3.メンテナンスレス
メカニズムのメンテナンスが大きな楽しみの一つでもある私にとっては、メンテナンスするところがないHROというのは、なんとも愛想のない機械です。しかしこのことは受信機を使う側に取ってみれば、とんでもなく素晴らしい機械です。つまり故障しにくいと言うことに他ならないからです。
グリスアップ箇所は少ないし、ギアトラッキングはありません。調整箇所と言えばプラグインコイルのトラッキング調整とIFの調整位のものですから、何にしても丈夫な機械です。

【弱点】
1.ダイヤルストリップ
ダイヤルストリップは、本来はプラグインコイルの付属品とも言うべきものです。
受信するバンドを切り替える場合は、@プラグインコイルを差し替えて、A前面パネルにある横行ダイヤルを回転させて目的のバンドにあわせます。
従って、オプションのコイルにはこの付属している「ダイヤルストリップ」を横行ダイヤルに取り付けて、オプションのプラグインコイルのトラッキング調整をしたり、ダイヤル周波数を読みとったりします。
もしダイヤルストリップがありませんと、オプションコイルのトラッキング調整等は全く出来ないことになります。(取扱説明書にもストリップのスケールコピーが記載してない)

新品で購入する場合はもちろん添付品として同梱されていますが、中古品で入手した場合にはほとんどついていないのが現状です。従って、入手したプラグインコイルのトラッキングを取ろうとしても、ダイヤルスケールがないためにそのままで動作させる以外手はないのです。しかし、これがまたなかなか手に入らないんです。
この前「eBay」で見ていましたら、EFストリップが1本$80で取り引きされていました。E/Fバンドは比較的ポピュラーですがAA/AB/AD等はほとんど出てくることはありません。

2.テーブルタイプのケース
HRO50/60のテーブルタイプは、外側のケースと全面パネルが一体構造となっています。この外側のケースの強度は、受信機を動作させる一般的な状態ではもちろん何ら支障はなく十分な強度です。しかし梱包して持ち運ぶとか業者に委託して運送するような場合には、運送途中にケースが変形したりする場合が多いため注意が必要です。
本来は本体を強固に保護するべきケースですが、本体の重量に対して外側ケースに充分な強度がないために前面や角の部分、ひいては、アンテナトリマーの破損などまで引き起こしてしまいます。従って、運送する場合にはクッション材等を使用して十分な梱包をする必要があります。
その点ラックタイプの場合は、外側のケースは頑丈なものを使用できますし、本体の前面パネルもテーブルタイプに比べて頑丈な材質で作られています。しかし、テーブルタイプのあの角の丸い雰囲気はまた格別のものがあります。

【メンテナンスポイント】
1.PWダイヤル
前にも紹介しましたPWダイヤルは、前面に窓の開いた外側のギヤと、数字が刻まれた内側のギヤがかみ合ってディファレンシャルギヤを構成しています。このためメンテナンスの時はこのギヤ部分のグリスアップは欠かせません。私の場合は自動車用のグリスを使用しています。また、バリコン側のウオームギヤについても同様にグリスアップしてやる必要があります。

グリスアップの後、PWダイヤルをウオームギヤユニットのシャフトに差し込んで締め付けるのですが、ウオームギアユニットとPWダイヤルの間に「波形ワッシャ」が入っていることが本来です。この波形ワッシャはPWダイヤルの内側と外側のギヤが浮かないように押しつける役目をするのですが、これが入っていないとPWダイヤルを回す度に「カチャカチャ」と音がします。

中古でHROを入手した人(新品で入手した人はほとんどいないと思いますが)のほとんどはこの波形ワッシャがなくなっていることが多いのです。それは、以前持っていた人がダイヤルを取り外したときほとんどこのワッシャを外したまま取り付けてしまうようなのです。私が入手した中古のHROで波形ワッシャが入っていた機械は2台位(PWダイヤルの付いた機械は10台以上持っていますが)のものです。
この波形ワッシャはスプリング機能さえあればよいので、日本製のものでも流用することは可能です。

2.トラッキング
HROで数少ないメンテナンス箇所にトラッキングがあります。この調整はHROのメンテナンスの半分以上といっても過言ではありません。新品のHROの受信機の場合、プラグインコイルのA/B/C/Dは受信機本体によりメーカー調整されています。しかし、中古のコイルやオプションコイルは当然手持ちの受信機とは調整されていないわけです。受信機は1台1台ストレーキャパシティが違いますので、必ずトラッキングを取らなければなりません。しかし、局部発振の周波数を調整するにしてもダイヤルストリップがなければ、バリコンの角度と周波数の関係がわかりませんので調整のしようがありません。

HROのコイルのインダクタンスの調整は、コイルボビン内部のコイル巻線の引き出し線が約半ターン余裕を持たせた形でボビンの中に存在しますので、この曲がり具合を調整して行います。この半ターンの余裕をどう曲げるかは(L1+L2±2M)・・このMは相互インダクタンスを示す・・の式の通りで、曲げ方次第で±2M分の変化が可能となります。しかし、HRO60のコイルユニットの場合、よほど本体の条件が変化していない限り(例えば真空管を他の品番に変更している等)コンデンサの調整だけで問題なく調整が可能です。

ここで改めてトラッキング調整の基本について紹介してみます。
トラッキング調整は、同調回路の「低い周波数の調整はL(ダストコア等)、高い周波数の調整はC(トリマー等)」で行います。ここで言う高い周波数とは調整しようとするバンドの90%付近の周波数、低い周波数とは調整しようとするバンドの10
%付近の周波数を指します。この調整を各バンド毎に数回繰り返してトラッキングのずれを収斂させていきます。

調整するコイルの順序は、1:局部発振回路、2:高周波同調回路の順に行います。局部発振回路の調整はトラッキング調整を始める前に、局部発振周波数が受信周波数より第1中間周波数分(例えば455Khz)だけ高い周波数を発振していることを他の受
信機などで確認します。
その上でシグナルジェネレータ等の信号出力を受信機アンテナ端子に接続して、受信機のダイヤルメモリと受信周波数が一致するように局部発振回路の低い周波数、高い周波数と繰り返し調整を行います。

このとき注意しなければならないことは、受信周波数が14Mhz以上になった場合、受信機によっては、局部発振周波数が下側を発振しているのが正規の状態である受信機(AR88等)があります。さらに、局部発振周波数が正規の局部発振周波数の1/2の場合(NC300/303で21Mhz以上の周波数帯等)もありますので、取扱説明書を十分に読んでから調整を行って下さい。

局部発振回路の調整に続いて高周波同調回路の調整を行います。
まず、受信機のアンテナ端子が75Ωまたは50Ωで終端された状態で標準信号発生器を接続します。次に受信機のアンテナコンペセンタつまみを中央位置とします。
この状態で各バンドの「低い周波数でL、低い周波数でC」を調整して最大利得が得られるように繰り返し調整し、トラッキングのずれを収斂させていきます。

【その他】
1.仕様について
HROに始まるこのシリーズは、最初はST管を使用してスタートしましたが、HRO5からはメタル管を使用したモデルとなりました。それ以来、中間周波増幅以降のステージは使用管種こそ変わりましたが、ひたすらメタル管・GT管を使用し、高周波増幅段・局部発振段・混合段はMT管に変えても中間周波以降の変更はしませんでした。

2000.11.22 初版
2002.11.13 2版


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