MILITALY  BC-342

1.はじめに
 御存知BC-342は、戦後の日本のアマチュア無線家に多数使用され、忘れることの出来
ない受信機の−つです。
  当時、BC-348、BC-779B等と共に、米軍より放出された受信機の−つで、無線関係の
雑誌にはよく販売広告が出されていました。また、BC-779Bより安かったため、お金をたく
さん持たないアマチュア無線家にとっては、買いやすい機種でした。
 しかし、中間周波数帯が2段と、BC-779の3段に比べ利得がやや少ないこと、上限受信
周波数が18MHzと低いことなどで、人気はいまひとつと言うところでした。しかし、7MHzが
主流の人達にとっては、充分な性能でしたし、メーカー製受信機は−般の人達にとっては、
やはり高根の花であったのです。

2.システム構成
  本題に入る前に、このBC-342シリーズについて紹介しておきます。
  このシリーズは、野戦多目的用として、車輌用、移動用、固定用として、昭和19年3月に
完成され、BC−312(A、C、D、E、F、G、J、L、M、N、HX、NX)、BC-312(A、C、D、F、J、L、
M、N)、BC-314(A、C、D、E、F、G)、BC-344(D)、等の各機種があります。
  これらを大別すると、1.5〜18MHzを6バンドでカバーする「HF型」と、150〜1500kHzを4バ
ンドでカバーする「MF型」とがあり、その各々に、「DC仕様」と「AC仕様」があります。
  これらの各々の名称を、HF型DC仕様は「BC-312」、HF型AC仕様は「BC-1342」、MF型
DC仕様は「BC-314」、MF型AC仕様は「BC-344」と付与しています。
  従って、DC仕様のものは電源にダイナモ、AC仕様のものは電源に整流管(5W4)を使用
していますので、AC型は10球、DC型は9球と使用管数が相違します。
  またHF型では中間周波数470kHz型ですが、MF型では92.5kHzとなっております。

これと組み合わせることのできる通信システムは、
SCR-177B、SCR-188A、SCR-193、SCR-284、CR-399、SCR-499、SCR-506、SCR-5
11、SCR-543、AN/GRC-9、AN/MRC-1、AN/MRC-2、AN/VRC/1などがあり、例を上げ
ると、SCR-188Aシステムは送信機SCR-191、との組合わせ、SCR1399A、499Aは、送信
機にBC-610Eとの組み合わせ等により使用されました。

  さらに、最後のアルファベットにより分類される部分は、外部電源より、12〜14VDC、10
〜120VAC、110〜120VAC、の各電圧による分類、局部発振器用のヒーター内蔵の有無、
ノイズブランカの有無、クリスタルフィルタの有無、ダイナモ形式などの相違により細分され
ています。 このような−連のシリーズのうち、特にアマチュア無線家になじみの深い、BC
−342について紹介します。

3.諸元及びブロックダイヤグラム
  〇受信方式
   高周波増幅2段、中間周波増幅2段、低周波増幅2段
   シングル・スーパーヘテロダイン方式
     BC-342、344・・・・・・・・10球(含整流管)
     BC-312、314・・・・・・・・ 9球(ダイナモ)
  ○受信周波数
     BC-312 11.5〜3.0MHz    BC-314 50〜260kHz
    BC-342 3.0〜5.0MHz    BC-344 260〜450KHz
            5.0〜8.0MHz            450〜820KHz
           8.0〜11.0MHz         820〜1.50MHz
          11.0〜14.0MHz
          14.0〜18.0MHz
           lF 470kHz            IF 92.5kHz
  ○重量及び寸法
     BC-342、344・・・・・・・・61.5ポンド、BC-312、314・・・・・・・・58ポンド
     10吋×9吋×18吋
      マウント(FT-162)3ポンド

4.システム構成
 本機は通信システムのうち受信機として使用することから、システム接続用のコネクタ
があります。これは、SCR-399-Aでは、送信機BC-610Eなどと組み合わせることから前
面パネルのエルボー型コネクタよリコントロールユニットJB-70に接続、BC-610送信機、
BC-614スピーチアンプ、BC-342受信機などをJB-70よリコントロールするようになってい
ます。

5.機構
本機の機構としては、写真1にあるように、左側にバンドスイッチ、ダイヤルエスカッション
左側にアンテナトリマー、ダイヤル左右のふくらみにランプが収納され、その右側のディマ
ーツマミにより野戦用のための照明の明るさ調整の可能。さらに右側にクリスタルフェー
ジングツマミ、BFOスイッチ、感度調整ボリューム、中央下側にメインファーストダイヤル、
右上にロックバンド付きのバーニアダイヤルとなっています。

 メインダイヤルは、バンドスイッチを切り換えることによリスリットが回転して、モノスケー
ルダイヤルとなっています。写真2にあるように背面から見ると、右側に大型の局発用コ
イルとバリコンが内蔵され、さらに発振管6C5が装着されオーブンを兼ねた、温度上昇用
として使用されています。

 また各バンド調整用のトリマーは、下側の埋め込み型のネジを外すと、調整可能です。
 バリコンの手前に並んでいる真空管は右側より、1stRF、2ndRF、MIXの順になっていま
す。この部分はサブシヤーシが斜めに取り付けてあり、背面のシールド板をはずすとRF
サブシヤーシが見え、RF部の点検ができます。

 中央にはクリスタルフィルタ、左側の大型ケースはBFO、さらに手前がlFT、シヤーシ下
側に電源部RA-20が見えます。
  また、RF部下側のシールド板を外すと、RF部調整用トリマーが現われます。

  これらの本体の外れ、写真1の下側に付いている台(FT-162)がアッセンブリとしてあ
りますさらに、タイバーシティ用として、OA-65/MRC-2があります。これは、局発部の一
部を取り替えて、片方の受信機の局部発振出力を、他方の受信機の局発へと供給する
ためのもので、このアッセンブリ(BC-342アンプユニット)は、1952年頃になって作られた
もので、当初からはこのようなものはありませんでした。言いかえると改造用オプションと
も言うべきものです。

6.電気的な特徴
 まず、空中線端子が2つあるのが特長です(写真1左上参照)。
  これは、受信用アンテナの雑音除去用アンテナの端子で、各々の端子に長短のアンテ
ナを接続し、その位相と大きさで雑音を相殺する方法を取っています。
  前期型のBC-342-C(車輌用)では、ノイズバランスコントロールがあり、車輌からのイグ
ニッションノイズを除去するため、このコントロールツマミが受信機に付属していますが、写
真1のBC-34Z-Nにはこれがついていません。

  従って、BC-342-Nを動作させこの機能を動作させるには、ノイズアンテナの長さ、位置
などを適当に変えて調整するわけです。
  また、空中線とアースの間には、3Wのネオン管が挿入されています。これは送信機か
らの誘導電力をバイパスさせる目的で取り付けられています。 後期型のBC342-Nでは、
スタンバイリレーによって、空中線は直接接地されるような構成になっています。

7.高周波増幅部
  高周波増幅は、6K7の2段増幅になっており、ANTコイルx6、RF1コイルx6、RF2コイルx
6、OSCコイルx6と各バンド毎に1個づつのコイルを持ち、1バンドに3段の同調回路を経由
して、高周波信号を増幅しています。また、各段のコイルはすべてタップダウン方式により
結合され(但し、BC-314、344はM結合)、各バンド毎に、エアートリマーが取り付けられて
います。
  さらに、写真3にあるようにお互いのコイルが干渉を少なくするように配置された上でシ
ールドはボックスに納められ、中央にタイト製のバンドスイッチウェハーに配線され、各段
毎に設置された中央を、1本のシャフトが貫通し、バンド切換えが行われます。
  これらの同調コイルと4連バリコン(13〜226pFの4連)とが一体となって同調回路を構成
しています。

  第1表を見るとわかりますが1.5〜8.0MHzの3バンドでは、周波数の伸び率が異ってい
ます。すなわち、ローバンドでは1.5〜1.66、ハイバンドでは1.3〜1.6となっています。
これは、チューニングのしやすさと、周波数読取精度の向上とを目的としているのですが、
この処理方法は、ハイパンドの時だけバリコンに125pFの固定コンデンサが、直列に接続
され、バリコンの容量変化幅を見かけ上小さくしてスプレッドをしているわけです。

 混合管には、7極管の6L7Gを使用し、AVCを掛けて使用しています。混合段にAVCを
掛けて使用している機種はほとんどありません。

  また、局発は6C5を使用した変形ハートレー回路により構成されています。
させています。(BC-314、344は格子同調陽極帰還型を使用)混合管との結合は、局発
のカソードから結合(BC-314、344は6C5のグリッドより結合)させています。
  これは、短波帯での局発は周波数安定度に重点を置くことから混合管の局発に与える
影響を少なくすることを考慮し、中波帯では安定度も上げる事を重点として局発の出力を
取り出すことを考慮したための設計ではないかと考えられます。

  中間周波数帯増幅は6K7による2段増幅、中間周波数は470kHz(BC-314、344では92.
5kHz)で、ダストコア入リlFT使用となっていますc
  このlFTのコイルは、エナメル線(BC-314、344ではリッツ線)を使用して巻き上げた後、
パラフィンをかけた防湿処理をしています。

  クリスタルフィルタは、BC-312-J、BC-312-HX、BC-342に装備されています。このクリ
スタルフィルタは第1図に示す様な回路になっています。このC51の4〜50pFのコンデンサ
を変化させますと、第2図に示すように、通過帯域の特性が変化します。
  この特性を利用し、不要信号波を、メインダイヤルとフェ−ジングコンデンサを使って、NU
LL点に追い込み、混信を除去して受信することができます。
  また、このフェ−ジングコンデンサをまわし切ると、第1図のSW10が閉じて、クリスタルフ
ィルタが抜けた状態になります。

  クリスタルフィルタを装備しないと他のモデルは、lFTのタップダウン処理による特性改善
処置を一部にほどこしていますが、特に期待するほどではありません。このことは、中波モ
デルも同様ですが、中波モデルの場合は、中間周波数が低いこともあって、選択特性はか
なり良いのです。

  この中間周波増幅段と、高周波増幅段のカソードは、すべて直流的に結合され、可変抵
抗器により、低周波増幅段の音量調整と連動して、「VOLツマミ」により、利得調整ができ
るようになっています。
  また、グリッド回路も同様に直流的に結合され、「AVC」により自動音量調整として制御
されると同時に、スタンバイ回路により送信機動作時には、負電位にクランプされ、ブロック
されるようになっています。

  検波回路は、6R7が使用され2極管部はAVC用、3極管部は低周波増幅用として動作さ
せています。

  BFOは、変型ハートレー回路を使用した6C5により動作させていますが、BFOと検液部間
に高調波除去用フィルタが挿入されており、このような回路が組込まれているのは、BFOと
しては極めて珍しい装備です。

  低周波出力回路は、6F6シングルになっており、出力インヒータンスは4kΩと250Ωです。
 出力側にヘッドセットが3組取り出せるようになっていますが(写真1右下参照)、BC-312、
312-Jでは、そのうちの1つが低インピーダンス出力端子となっています。場合、サイドトーン
モニタ用としての目的のための構成となっています。

  電源回路は、写真4にある様に、RA-20と呼称され、整流管には5W4が使用されています。
 電源入力電圧110Vまたは120Vの切換、出力はDC250V、AC12Vとなっています。また、
RA-20-Aでは定電圧管0A2が装備されます。(RA-20-Bは、RA-20-Aとほとんど同じ)
  BC-312、314ではダイナモ(DM-21)が装備され、入力電圧DC12.4V、2.7Aにより駆動さ
れDC260V、82mAの直流出力が取り出されます。
  また、ヒーターが12Vにて点火されることは、他の機種と同様です。さらに、BC-312-NX、
HXではヒーター接続が異なります。
  これは、電源電圧が24〜28V仕様となるため、6.3V管が4本シリーズ接続され、出力管が
6F6から12A6に変更となっています。この12A6に変更理由は、ヒーター電圧と電流の関係
だけで、他の電気的特性上の理由はありません。
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