COLLINS  R-390A



 【諸元】
  Model :R390A
  Years :1958-
  Price :$1421
  Freq :32Band/0.5-32Mhz
  Type :Double/Triple Conv
  IF  :17.5M-25M/3-2M/455k
  Filter:4 Mechanical/crystal
  Tubes :24
  Maker :Collins/Motorora/EAC/Amelco/Capehart/Teledyne.etc
  COIL UNIT BAND
   BAND1 :0.50-1.00Mhz
   BAND2 :1.00-2.00Mhz
   BAND3 :2.00-4.00Mhz
   BAND4 :4.00-8.00Mhz
   BAND5 :8.00-16.0Mhz
   BAND6 :16.0-32.0Mhz
【魅力】
第2次大戦後の米軍の主力受信機として、R274(SP600/SX73/HRO60)シリーズ・・・・R388(51J1〜4)シリーズ・・・・R390(R389/390/391/392/390A)シリーズ・・・・51Sシリーズ・・・・シンセサイザ機種へと変遷する中で、電気的構成とギヤーメカニズムを見事に融合させた最高級受信機の一つです。
特に、ユニット交換でメンテナンスが可能なこと、すばらしいギヤーメカニズム、メカニカルフィルタ4本登載、デジタル表示ダイヤル等数々の機構を取り入れた名機です。
また、軍用仕様であることから、使用されている部品とその材質は素晴らしいもので、受信機の特性として現在でも実用機として優れた性能を有しています。

1.ギヤーメカニズム
この機種の最大の特徴は他に類を見ないRF・IF部のギヤメカニズムです。
RFユニットのギヤメカニズムは芸術的とも言える動きをします。高周波増幅部の同調機構は6列のスラグラックを装備し、写真左側からF・E・D・C・B・Aの順に配置しています。このスラグラックはメガヘルツチェンジノブ(この時代の機械の説明はメガサイクルを使わないと感じが出ないな)の変化に従って、F=0.5M-1.0M=0.5M幅 : E=1M-2M=1M幅 : D=2M-4M=2M幅 : C=4M-8M=4M幅 : B=8M-16M=8M幅: A=16M-32M=16M幅をカバーする様になっています。
従ってスラグラックの上下動のストロークは、Eの1Mhzのストロークを1とすれば、F=2,E=1,D=1/2,C=1/4,B=1/8,A=1/16のストロークとなり、上下にガチャ、ガチャと動きます。この動きに従って当然IF部のスラグラックも連動して上下することになります。
さらにキロヘルツチューニングノブを回しますと、メガヘルツチェンジノブに従って変化した位置からさらにキロヘルツチューニングノブの変化分だけスラグラックが連動してわずかにスライドし、目的の周波数に同調させる動きをします。



このスラグラック相互の動きを上から眺めながらメガヘルツチェンジノブを回しますと、ノブとスラグラックの動きと周波数の連動性に感心してしまい、メガヘルツチェンジのクリックストップの「カクン・カクン」を快く聞きながら、しばらくの間無意識にノブを回しながら見入ってしまいます。
それからキロヘルツチューニングノブを回しながら「ウオ〜!」などと声を上げながら感動することになります。
女房が「どうかしたの?」と言ってきますが「ん!」と空返事で追い払います。

2.オーブン入りPTO
PTOは、オルダムカプラを介してキロヘルツチューニングノブに直結しています。
キロヘルツチューニングノブを10回転させると、ノブ1回転当たり100Khzですから1Mhz変化することになります。


これまでの他社の受信機のほとんどは、バリコンによって局部発振器の発振周波数を変化させていました。しかし、コリンズ社では早くからコイルの中にダストコア(圧粉磁心)を出し入れして、インダクタンスを変化させる方法で発振回路の発振周波数を変える方法を使っていました。この方法はバリコンを使って周波数を変化させる方法に比べて、コアの機械的変化に対する周波数の変化が直線となる様に補正しやすいのです。このためダイヤルの周波数読みとり精度が各段に良くなることになります。
しかし、ダストコアの出し入れによるインダクタンスの可変範囲はそれほど広くとれないため、局部発振器の変化周波数を1Mhz程度とした親受信機を構成させて、その頭に局部発振器に水晶片を使用したいわゆるクリスタルコンバーターを付け、その受信周波数帯域を広げるために水晶片を切り替えると言う方法を使いました。これが「コリンズ方式」の受信機です。

この受信機の心臓部とも言えるのが「PTO」なのです。前にも紹介したようにダストコアを出し入れしてインダクタンスを変えるわけですから、機械的な変化が周波数的な変化になります。しかし、ダストコアの均一性や固定してあるコイルの巻線の均一性などを補正するために「コレクター」と称する周波数補正機構により、発振周波数の直線性を維持しています。また、周囲の温度変化によるパーツの定数の変化は周波数を変動させる要因です。これを極力排除するためにPTOユニットを恒温槽(オーブン)に入れてしまえばいいわけです。また、周囲温度の影響を少なくする目的を達成する簡単な方法は、周囲温度より高い方へシフトするか低い方へシフトするかの方法があります。
一般的には温度を上げる方法の方が簡単なために、断熱材で周囲を温度遮蔽した上で内部の温度を上げる方法を採ります。この様な配慮をして受信周波数の安定化図っているのが「オーブン入りPTO」なのです。

しかし、私の場合これまでPTOのオーブンのスイッチはテストの時以外は入れたことはありません。もともとオーブンは一定温度にまで到達するためのウォームアップ時間が必要であり、この状態による長時間使用の場合に効果を発揮するわけですから、短時間使用ではオーブンの効果が発揮することは出来ません。つまり私のようなものにとってはオーバースペックということになります。
51J・75A・75S・32SシリーズでももちろんPTOは使っていますが、内部での温度補償されているのは当然ですが、「オーブン入り」までのスペックではありません。

3.メカニカルフィルタ
メカニカルフィルタは2/4/8/16khzの計4本を標準装備しています。
IFユニットに4本を装着し、さらにクリスタルフィルタにより0.1khzの特性を得ていますが、このときにも2khzのメカニカルフィルタは挿入されたままの状態で、クリスタルフィルタのスカート特性の悪さを改善しています。
51J4や75A4でも2本標準装備であとはオプションですから、4本標準装備というのはかなり贅沢スペックです。さすがに軍仕様ですね。
しかし、このメカニカルフィルタも製造してから数十年も経ちますと封入ケースの内部での断線故障が発生することがあります。
この断線故障の原因は、メカニカルフィルタの機械振動ユニットを封入ケースにホールドしている緩衝材(モルトプレーン)が劣化して融けた状態となり、緩衝材として機能しないため、無線機の移設や運搬などの衝撃や振動により封入ケース内部で機械振動ユニットが揺れて、貫通端子内部の半田接続部分で断線することがあります。
かって不良メカニカルフィルタを解体して確認したときは、モルトプレーンは融けてボロボロ状態のため振動ユニットは中で遊んでいた状態でリード線が封入ケース端子の半田付け部分で見事に断線していました。

こんな様子ですから、運搬や移動にはよほど注意しないと危険です。とはいっても運送業者に「メカニカルフィルタが入っているから注意深く運んでね」と依頼しても「はぁ?」で終わりです。古い機械ですからまさに「AS IS」ですね。
しかし、やる気さえあれば、メカニカルフィルタの封入ケースの半田を取り除いて解体し内部の修理をやることは可能です。これで1本2万円程度の救済になるのですから、頑張ってみるのもいいかもしれません。


4.全般
(1)局部発振器
第1局発・第2局発・校正用発振器(クリスタルオシレータ)のいずれも「オーブン入り」となっています。
(2)BFO
なんとBFOまでPTOです。BFOの調整ノブがPTOのシャフトに直結して、アコーディオンのような伸縮自在のカプラで結合されています。
(3)低周波増幅部
独立した2系統のアンプを持っており、片方はスピーカまたはヘッドホン用「オーディオ出力」、もう一方は有線伝送用の「ライン出力」となっています。片方が不良となっても、状況によりもう片方で受信が可能です。
(4)ユニット構造
RF・1STLOCOSC・3rdIF・PTO・AF・POWERの各部がユニット構造となっており、不良の場合に各ユニット毎交換して早期修理が可能となっているため、交換ユニットさえあればメンテナンスは簡単になっています。
また、メーカが異なっても基本スペックはほぼ同じであるため互換性があります。
このことが、逆にメーカー各社の純正ユニット構成の390Aが少ないゆえんでもあります。

【弱点】
1.チューニング
チューニングはPTOのシャフトを直接駆動していますから、つまみ1回転100Khzとなっています。AM放送を受信するのであればほとんど問題はないのですが、電信やSSBを受信するとなるとつまみ1回転100Khzは変化しすぎです。
それでもダイヤルが軽ければいいのですが、立派なギヤトレインも同時に駆動していますから、どうしてもチューニングの回転の負担になります。
しかし、充分なメンテナンスが施されていて正常な状態であるならば、メインダイヤルの重さはあまり気になりません。
それよりは、デジタル表示のメカニカルディスプレイの歯車の音の方がよほど気になります。この音は51S1にも共通する状況です。

2.メンテナンス
素晴らしいメカニズムは、メンテナンスする箇所が多くなるため弱点にもなってしまいます。
理想的に言いますと、この機械のメンテナンスはギアトレイン・各ユニットに解体してクリーニング・グリスアップし、それぞれのユニットが標準状態であることを確認してから組み付けて、同期関係やトラッキングを行うことが望ましいのです。
しかし、RF・PTO・XTALOSCの3ユニットのギア同期調整、トラッキング調整などだけでも、マニュアルを読んでもなかなか難しいことです。
従って、もしメンテナンスが必要ならば、それなりの処へ出した方が無難です。もちろんそれなりの費用は必要ですが。
しかし「出っぱなし」状態のものを入手した場合には、自分でやるか・誰かに頼むか・そのままで我慢するかになるわけですが、入手値段を考えれば「ディスプレイバルブ」と言うこともありますね。
いずれにせよ自分でメンテナンスしようとしたら、相当な時間の覚悟は必要と思って下さい。

【メンテポイント】
1.ギヤトレインのグリスアップ
一般的にグリスアップというと、ギヤとギヤがかみ合う部分、ベアリング部分、スラスト部分、スライド部分がポイントと言うことになります。これらの部分のグリスアップを行うことはもちろんですが、これ以外に見過ごしやすい部分がいくつかありますので紹介しておきます。

390AのRFユニットのギヤのほとんどはダブルギヤを使用しています。これらのギヤは薄い2枚のギヤを重ね合わせてスプリングで互いに引っ張り合っていることにより、ギヤのかみ合わせに遊びが生ずることがありませんのでバックラッシュを発生させない構造になるわけです。
メンテするためにギヤトレインを解体してギヤを洗浄しますが、ギヤの歯の部分や全体はもとより、2枚のギヤをスライドしながらギヤの重ね合わせの間の洗浄がもっとも大事な工程です。この部分を洗浄しない場合には2枚のギヤの重ね合わせ部分がよごれと油で一体化されて固定されてしまうため、ダブルギヤの意味はなくなってしまいます。それだけでこのRFユニットの機能は低下してしまう訳ですから、このダブルギヤの重ね合わせ部分の洗浄が重要な意味を持っています。

もう一つ見過ごしやすいポイントがあります。それはスラグラックの端についているスライドリングです。
この部分はスラグラックがRFユニットの前側と後側にあるハート型カムの回転に沿って上下にスライドするために外側のリングがハート型カムに接しています。
しかし、この部分のボールベアリングの洗浄とグリスアップを怠ると、固形化した油と汚れで外側リングが回転しないため、ハート型カムがこの部分を繰り返しこすりながらスライドしますので、いかにステンレスといえども削れてへこんでしまいます。
いったんこの部分がわずかでもへこみが生ずるともうリングは回転しませんから、それ以後同じ場所を繰り返しこする状態が続くことになります。その結果は言うまでもありません。スラグラックを取り替える以外方法はなくなります。「そんなことがあるかい!」とお思いでしょうが、これが意外と多いんですよ。ちなみにご自分の390/390Aを折りがあったら確認してみるといいですね。

2.スラグコアのねじしろ確認
RFユニットのトラッキング調整が終了したからと言って安心してはいけません。とりあえず調整が済んだと言うだけです。
改めてRFユニットを上から見渡すとスラグラックの上にダストコアのネジが1列に並んで見えます。このネジの高さが実にそろっているんです。例えば平均的にネジの頭の出方が多いか少ないか、飛び出したり沈んだりしたものはないか等を確認します。

ネジしろのほぼ中央で止まっていれば、ギアトレインの同期関係は正常にとれています。もし極端にネジしろが偏った位置(ほとんどラックに沈んだ状態または飛び出した状態)である場合は、ギアトレインの同期関係が正常にとれていないことを示しています。
このようなときには、改めて最初のギア同期からセッティングし直す必要があります。また、1本だけスラグラックに沈んでいたり飛び出ていたら、なんらかの異常がその段に存在することを示しています。例えばコイルに取り付けてあるセラミックトリマが接触不良で所定の容量まで変化できないために、コイルのインダクタンスを増加または減少方向にスライドさせて同調周波数に強制的に合わせているようなことがあるのです。従って該当バンドの受信帯域のトラッキングがとれていない状態にあるのです。

【その他】
1.R390グループについて
R390グループにはつぎの各機種があります。
(1)R389 :R390の長波対応版
(2)R390 :メカニカルフィルタなし。B電源回路に定電圧回路搭載。
(3)R391 :R390+オートチューン機構付き


R390AはR390とは別機種と言ってもいいほど内容が相違するため、類似機種と言う方が適当。
(4)R390A:メカニカルフィルタ4本内蔵。

2000.11.01 初版
2000.11.08 2版
2002.11.13 3版


BACK TO INDEX inserted by FC2 system